里での戦いから一週間過ぎた。

幸い俺の負傷自体はたいした事はなかった。

両脚の骨にそれと肋骨にひびが入った程度だった。

これでも十分重傷なのだが、俺以外の皆は想像以上に六遺産との死闘で俺以上にひどいダメージを受けた。

先生、アルクェイド、先輩、レンはひどい怪我はない(アルクェイドは戦いの傷は全て治癒したそうだ)が、秋葉は両腕の神経が寸断され(幸いシオンのエーテライトを移植する事で解決しそうだ)、シオン、沙貴は全身打撲、(特に沙貴は何箇所か骨折すらしていた)、翡翠、琥珀さんは全身ひどい筋肉痛に見舞われ、屋敷に還って来てから暫くは世話人が全滅と言う有様だった。

まあ俺は有間の家で自分の事は自分でやっていたし、今でも翡翠らの目を盗んで色々行っているから特に問題も無いが生粋のお嬢様の秋葉は結構苦労した様子だった。

それでも先輩の治癒が功を奏し、怪我人の容態も急速に良くなっていった。

そして、ようやく翡翠、琥珀さん、沙貴も復帰し、屋敷にもいつもの日常が戻りつつあった。

だが、俺が魔術協会と、聖堂教会に狙われているという事実に何も変りは無い。

先生が魔術協会に掛け合ってくれるとの事であるが、過度の期待もまた禁物だろう。

おそらく事態は最悪の方向に行くと・・・協会と教会との一戦もあるだろうと・・・思い『古夜』と『凶神』の手入れを始めた矢先、

志貴、教会と協会で出された君の抹殺命令、無しになったから

そんなあっさりとした先生の言葉で俺にとって訪れるかと思われた最大の危機はあっけなく脱せられた。









「・・・で先生」

「??何志貴」

今で先生の話(と言っても上記の一文だけ)を聞いた俺達はたっぷり三分無言になった後代表して俺が全員の心境を代弁した。

「詳しい話をお願します」

「十分詳しいじゃない。志貴の抹殺命令は無しになった。万事めでたしめでたしでしょ?」

「一部は認めますが、当事者である俺としては、どの様な過程でそうなったのかを是非とも聞きたいのですが」

「ふう、全く志貴も心配性ね」

「そうならざるを得ない環境で今日まで生きていきましたから」

「判ったわよ。全く・・・面倒くさいわね」

「いや面倒くさいって先生・・・」

「冗談よ、冗談。結果から言うとね。黒のお姫様が動いたのよ」

「アルトルージュが!!」

「ええ、要点だけまとめると『七夜志貴に手を出すのならば自分達に対する敵対行為と同意味と思え』って恐喝してきてね。それに協会が怖気づいて命令をあっさりと撤回。教会は黒のお姫様ともやり合うつもりで最初はいた様だけど、戦力の不安から渋々撤回したって訳」

思わぬ展開に俺も含めて全員呆然としている。

「それにしても・・・なんでアルトルージュ・ブリュンスタッドが七夜君を?」

「そんなの私にもわかりません」

「そりゃアルトルージュが志貴のご先祖様の娘だって言う事は知っているけど、それだけで志貴の為にしてくれる?」

先輩達が首を捻るが何故動いたのか、俺にはある程度見当がついていた。

それを察したのか沙貴が俺に耳打ちをする。

「兄様・・・もしかして・・・」

「ああ間違いない」

(鳳明さん・・・ありがとうございます)

おそらく鳳明さんが動いてくれたのだろう。

「でも・・・どうして鳳明様が・・・」

沙貴が心底不思議そうに首を捻る。

それをみて俺は思わず苦笑する。

アルトルージュが鳳明さんの娘だと言う事を覚えているなら、鳳明さんが動いた事位、そして鳳明さんがアルトルージュに働きかけてくれた事も察しても良いのではとも思うが、良く考えてみれば鳳明さんをアルトルージュに返した事は言っていなかった事を思い出した。

「だけど流石に志貴の事を完全に自由にする事も出来ないから、志貴に監視が付けられる事になったわ」

そんな俺を他所に先生の話は続く。

「まあ妥当な所ね、で、誰が志貴の監視に当たるの?」

「とりあえず協会からは私がその任に任されたわ」

「へっ?ブルーが?よくそんなの協会の石頭が任せたわね」

「そうですね。七夜君と親しいブルーには決して回ってこないと思いましたが」

アルクェイドと先輩の疑問に先生は明快な回答を言った。

「任された・・・と言うより誰もなり手がいなかったから、最後に止む無く私にお鉢が回ってきたと言った方が良いわね」

「ああ〜なるほどね」

「そんな所でしょうね。王冠クラスの魔術師でも今の七夜君と対等に戦うのは極めて困難ですから」

何の疑問も無しに頷く。

「それで先生教会は?先生の口ぶりからだと教会と協会、双方から監視が来るのでは?」

「鋭いわね。ええそうよ、教会からは埋葬機関を代表して弓が選ばれたわ」

「えっ?私がですか?私何も聞いていませんよ!!」

先生の台詞に本気で驚愕する先輩。

「それはそうよ。あの陰険女、私に貴女宛の辞令書持ってきたんだから」

そう言って先生はトランクから取り出した辞令書と思われるクシャクシャに丸められた紙を投げて寄こす。

「なんであの女が出した辞令書を貴女が私に出すんですか!」

「さあ、面倒だったんじゃない?」

「・・・あの女・・・いつか必ず滅ぼしてあげましょうか・・・」

ドス黒いオーラを撒き散らす先輩を取り合えず無視する。

「それで先生、先生ももしかしてここに住まれるのですか・・・」

「当然よ、そうでなきゃ監視の意味合いが無いじゃない」

仰るとおりで。

「そう言う訳だから妹さん、私にも部屋お願いね。出来れば最高級の」

「何家主の了解得ずにデカイ顔で要求しているんですか!!」

さらりとワガママ要求をしてくる先生に秋葉がぶちきれて赤くなりかけているが、それは相手が悪い。

と、誰よりも秋葉の反転を知り尽くした人が既に動いていた。

「あは〜秋葉様駄目ですよ〜簡単に反転しちゃ」

手馴れた動きで琥珀さんが首筋に注射を刺す。

それだけで秋葉はあっと言う間にすやすやと眠りについてしまった。

「あらら見事ね〜」

「お褒めに預かり恐縮です」

「と、とりあえず・・・青子先生は私が案内します」

「そう、じゃあお願いね沙貴」









こうして、結局、先生も俺の監視の名目上この屋敷に逗留する事になった。

遺産との戦い前にあった日常は沙貴、シオン、そして先生が加わり、更に賑やかになった。

こんな賑やかで騒がしい日常、何時まで続くかはわからない。

再び教会か協会の標的にされて死ぬかもしれない。

死徒との戦いで命を落とすかもしれない。

それか死に限りなく近いこの身体が死に絶えるかもしれない。

それでも生きていくしかないだろう。

まだやる事が残されている以上は生きて全て終わらせないといけない。

そして、何よりも俺を必要としてくれている人がいる以上は死ぬに死に切れない。

そういった人がいなくなる時までは俺は俺らしく自分に正直に生きていくとしよう。









後書き
   長々と続けてきました精神遺産ですがこれで完結となります。
   予想以上に長く続け過ぎてしまいました。
   予定通りに進めばかなり前に終わっていた筈だったんですが、六話の遺産や 「凶夜』の戦いに全くアイデアが出ず、一年以上も休載までさせて貰ってようやく今日のこの時にこぎつけました。
   この場を借りて感想を下さった皆さんにお礼を申し上げます。
   で、話は変わりますが本作はこれで完結ですが、『路空会合』と同じく余談話を構想中です。
   ただ、今回の余談話ですがどうアイデアを捻っても以前の『落鳳蒼墜』以上に暗い話になってしまいます。
   もしそれでも読んでみたいという奇特極まりない方がいましたら掲示板に声をお寄せ下さい。
   長々と後書きを述べてしまいましたが、最後に重ねて御礼を申し上げます。
   ありがとうございました。

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